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蒼の世界

ある製品のCMで初めて目にした「青の洞窟」。
幼心に、あの幻想的な光景にドキドキしながら、いつか行きたいと漠然と思っていた。
働き始めて数年、機会は思いがけない所から。
同僚がイタリア旅行に行こうと誘って来た。
そして、その旅行の中に、幼い頃に描いた夢が実現する、カプリ島への旅も組み込まれていた。

何度も海外旅行は経験して、色々な場所にも訪れた。
だが、こんなにワクワクしたのは随分久し振りだった。
子供のように逸る気持ちを抑え込みながら、船で渡った小さな島。
そんな場所には、予想を上回る程の各国からの観光客。
青の洞窟へと入る事の出来る時間は決まっている。
入り口が開く干潮の時のみ。しかし周囲は人・人・人の塊。
その時届いた、ツアーコンダクターの「走って!」の掛け声。
その声の示す方へと、私たちは走った。
ツアーのメンバー全員が揃わないと、船は出しては貰えない。
一人でも欠けると、そこで順番が後ろへと送られる。
日本からのツアーは時間がびっしりと組み込まれたもので、この時間を逃したら、もう2度と戻っては来られない。
若い子もおばさんも、おじさんも、皆で走って、漸く手に入れた順番。
数人のグループになり、乗り込んだ小さな船。
身を屈めないと、岩肌の天井に頭が当たってしまう。
案外早いスピードで突き進む船の上、少しの恐怖を感じて、陽の射す外界から洞窟へと潜り抜ける瞬間、私はぎゅっと目を瞑った。

やがて聞こえてきたのは、テノールのカンッツオーネ。
穏やかに進みを変えた船の上、優しく響く歌声に屈ませていた身を起こし、私はそっと瞼を開いた。
…言葉が出なかった。
どんな綺麗な絵の具を混ぜても、作り出せない蒼が、目の前に広がっていた。
深い深い輝く蒼、呑み込まれそうになるような錯覚を覚えながら、瞬きさえ忘れて、その蒼へと見入った。
それは、CMで見たよりももっともっと、透明で幻想的な世界だった。
この世には有り得ないとも思える光景を目の当たりにして、私は瞬きだけではなく、呼吸さえも忘れていたように思う。

今でも瞼を閉じると、その蒼の世界が広がる。
優しい優しい、カンッツオーネの響きと共に。


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